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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)1053号 判決 1970年2月06日

上告人

福間八郎

代理人

手島真哲

被上告人

金吉子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人手島真哲の上告理由第一点ないし第三点について。

上告人が被上告人の催告にかかる本件賃料債務につき債務の本旨に従つた適法な提供をしなかつたことは原審の適法に確定した事実である。そうとすれば、上告人が右賃料債務につき弁済供託したとしても、債務を免れることのできないことは明らかである。よつて所論の点についての上告人の主張は判決に影響を及ぼさないこと明らかであるから、論旨は採用できない。

同第四点について。

第二審において上告人から提出された準備書面が陳述された旨口頭弁論調書に記載がなく、かつその記載のないことにつき当事者から異議の述べられた形跡のない場合においては、特段の事情のないかぎり、右準備書面は第二審の口頭弁論理由に陳述されなかつたものといわなければならないところ、本件記録によれば、所論の準備書面が陳述された旨の記載は原審口頭弁論調書にないばかりか、その記載のないことにつき当事者から異議の述べられた形跡も認められず、そして右準備書面が陳述されたことを認めることのできる証拠もない。したがつて所論準備書面は結局原審口頭弁論理由に陳述されなかつたものといわざるをえない。そうとすれば、右準備書面の陳述されたことを前提とする所論の理由のないことは明らかである。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

上告代理人の上告理由

第四点 上告人は原審に於ける昭和四四年六月二三日第二回口頭弁論に於て被上告人及其代理人角銅立身の面前にて準備書面(昭和四四年六月二三日附準備書面の答弁書)を提出し之に基き陳述し被上告人の本件未払賃料の支払催告と不払を条件とする賃貸借契約解除の意思表示は本件賃料の支払方法が上告人住所に於ける取立債務(準備書面四ノ二)であり且権利の濫用(準備書面末尾)であるから無効である旨の主張をした此の事実は左の事実により明である。

(一) 上告人が提出した準備書面には原審裁判所の昭和四四年六月二三日附のスタンプが押されて本件記録に添付してある。

(二) 右準備書面の副本は同日原審法廷に於て被上告人代理角銅立身に交付して送達したから右準備書面に副本受領の趣旨にて角銅の印影がある。

然るに同日附口頭弁論調書を判決言渡後閲覧すると上告人が準備書面に基き陳述した旨の記載がないことを発見した。

然らば原審に於ては上告人が準備書面に基き陳述して主張した旨を口頭弁論調書に記載し上告人が主張した被上告人の本件賃貸借未払賃料の支払催告と不払賃料を条件とする賃貸借契約解除の意思表示は賃料債務の支払方法が取立債務であり又は権利の濫用であるから無効であるかどうかに付審理を遂げ判断すべきであるのに之を遺脱して為した原審判決は民事訴訟法第三九五条第一項第六号の審理不尽、理由不備の違法がある。

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